ウィルコムの喜久川政樹社長 |
ウィルコム代表取締役社長の喜久川政樹氏は12日、「WILLCOM FORUM & EXPO 2007」の基調講演で同社の当面の戦略・予定を語った。「W-SIM(ウィルコムシム)」を活用したプラットフォーム戦略を強化、パートナー企業との連携をさらに推進し、端末の多様化をさらに進展させる。また、この夏に東芝製の「使い勝手の良いユーザーフレンドリな端末」(喜久川社長)と、Windows Mobile 6を搭載したシャープ製の端末を発売する意向だ。
「W-SIM」は、アンテナ部と無線機からなるPHS無線通信技術を搭載する通信モジュールであり、通信技術のない異業種の企業も、これを利用すればPHS端末を製品化することができる。同社ではすでに、ベネトン、タカラトミー、バンダイなどと提携、これらのブランドの端末が投入されているわけだが、今後このプラットフォームをさらにオープン化する。喜久川社長は「W-SIMに加え、無線通信の基本機能をも含めた基板までをプラットフォーム化すると、他の企業はさらに製品化がしやすくなる」と指摘、PHSの外形部分を「プラモデル」にして、ユーザーが組み立てる「プラモデルフォン」や「ガンダムフォンもつくれる」(同)としている。
また、10キーすらない、電話帳データだけで使用する基本形の端末を出し、そこに一般的な10キーを付加したり、あるいは、GPS機能とワンプッシュキー、ロングライフバッテリーなどを付けるといった「もっと自由な発想の端末」を同社は考えている。これらは、実際の製品化までの予定はいまのところないが、2007年度は、端末の多様性がさらに広がる可能性が大きいようだ。ただ、夏に出す東芝、シャープの新製品と、このような新たな構想との直接的な関連は明らかにされなかった。
携帯電話陣営は「垂直統合型のビジネスモデル」(同)を続けている。事業者が通信ネットワークを構築、自社ブランドの端末を用意して、自前のインターネットサービス体系(NTTドコモであれば、iモード)を保有している。だが「ウィルコムはまったく逆。水平展開をしている。得意分野である無線通信のプラットフォームを活かし、ブランド、カスタマー、販売チャネルなどを持つパートナーと組んで、新たなマーケットにカスタマイズされたサービスを全面的に展開する」(同)
同社は2005年に音声定額制を導入、他社が次々とPHSから撤退するなかユーザー数を増加させ「年率15-20%の成長率で、加入者数、売上が伸びた」(同)。しかし2006年10月、携帯電話分野で番号をそのままにして事業者を変られるMNP(Mobile Number Portability)が始まり、移動体通信産業全体での競争が激化。そのあおりを受ける形で、同社の純増数はそれまで月間5-10万で推移していたが、11月には「2万5,000程度」(同)にまで低下した。
MNP開始から5カ月が経過したが、同社の純増数は「2006年11月を底に復活している」状況で、この3月度には9万3,000に伸長している。IT産業の業界団体・JEITA(電子情報技術産業協会)が発表した2007年2月移動電話国内出荷台数実績によれば、PHSは前月比9.1%増の17万2,000台と半年ぶりにプラスに転じている。喜久川社長は「成長の鈍化は一時的なもの」と話し、強い自信を示す。その背景には「ウィルコムのPHSには制約がない。定額制では、データであれ、音声であれ、24時間使える。時間制限などはない」(同)ことがあるとみている。
ソフトバンクモバイルが携帯電話での音声定額制を始め人気を得ているが、午後9時から午前1時まではまでは除外されている。「個人ユーザーの場合、21時から深夜は通話が集中する。携帯電話でこの時間帯を定額制にすれば、容量を超えてパンクする」(同)が、同社PHSのマイクロセル方式は、全国に約16万局設置している基地局により、面積の小さな範囲内で通信するため「大容量なので、多数のユーザーが同時に通話しても、遅延、輻輳が起きにくく、品質が劣化しない」(同)
また、データ通信で「デバイス制限がない」ことも強みであるという。喜久川社長は「パケット定額制を選択している携帯電話ユーザーが、パソコンに接続して使ってインターネット接続していたところ、1カ月の請求額が120万円になったとの話が先日新聞で報道された。パソコンとの接続は定額制の範囲外だったからだが、当社の定額制ではこういうことは起こらない」と強調する。同社は、MNPによる携帯電話市場活性化や、ソフトバンクの音声定額制の影響による「暴風雨」は去ったとみており、2007年度も、音声定額制によるユーザー数拡大傾向の余勢を駆って、より高速化できる次世代PHSの開発、中国市場を中心とした海外への展開も視野に入れるなど、成長に向けた攻勢を一段と強くしていく方針だ。