インテル 研究開発本部シニアリサーチャー 庄納崇氏

インテルは9日、同社が技術開発や規格策定に積極的に取り組む無線アクセス技術・WiMAXについて最新動向を紹介した。

説明にあたった同社研究開発本部シニアリサーチャーの庄納崇氏は、WiMAXの位置づけについて、携帯電話網のような「無線WAN」と、建物内を無線化する「無線LAN」の間を補完する「無線MAN(Metropolitan Area Network)」であると説明。1基地局がカバーするエリアは携帯電話並みの広さだが、国全体をサービスエリアとするような携帯電話網とは異なり、ブロードバンドが必要な特定の地域に対して無線アクセスを提供することを主眼として開発された技術となっている。携帯電話網とは補完的な関係にあるが、携帯電話のような垂直統合型のシステムではなく、オープンなネットワーク技術であり「真のワイヤレスブロードバンド」(庄納氏)を実現する既存規格はほかに無いとアピールする。

WiMAXの標準化に関わる組織はIEEEの802.16 WG(ワーキンググループ)と、米Intelが代表を務める非営利業界団体「WiMAX Forum」の2つがあり、うちWiMAX Forumは規格の推進と相互運用性の認証を行う。802.11無線LANにも同様の機関としてWi-Fi Allianceがあるが、WiMAXはWi-Fiよりも規格が複雑なため、認証機関の重要性はさらに高いと庄納氏は話す。

規格と性能

IEEEで標準化された規格としては2001年12月の「802.16」が最初だが、現在単にWiMAXと言った場合一般には、802.16aなどいくつかの後継規格を整理する形で策定された「802.16-2004」(2004年6月)を指す。802.16-2004では、当初の802.16で10~66GHzとされていた使用周波数帯が11GHz以下とされたほか、変調方式にOFDMを用いることがトピックとなっている。ただし、日本では既に光/DSL接続が広く普及しているので、固定アクセス向けのWiMAXは、有線ブロードバンド化が難しい地方部などを除いて大きな需要が見込めない。そこで、移動体通信にも利用できる「モバイルWiMAX」が注目を集め、国内でも複数の事業者が実証実験を行っているが、規格としては、OFDMAを採用し、基地局間でのハンドオーバーの機能などを追加した「802.16e-2005」(2005年12月)がこれに相当する。

モバイルWiMAX(802.16e-2005)もWiMAX(802.16-2004)をベースとしているが、802.11bと802.11gのような互換性があるわけではない

また庄納氏によれば、802.16-2004と802.16e-2005を整理した「802.16-2007」の標準化が今年中に完了する予定であるほか、マルチホップ中継をサポートすることでビルの谷間や屋内の不感地帯をカバーする「802.16j」(今年中を目処)、そしていわゆる第4世代携帯電話(4G)規格であるIMT-Advancedでの採用を目指す「802.16m」(2009年中を目処)が既に標準化作業をスタートしている。

次世代のモバイルWiMAX規格として802.16mの標準化作業が始まっており、4Gでの採用を目指す

モバイルWiMAXの伝送速度については、周波数帯域幅10MHzの場合で理論値最大31.68Mbpsとされるが、これは全帯域をダウンリンクに使用して1ユーザーが占有した場合の数値で、実際にはダウンリンク/アップリンクの割合と、周波数を分け合うユーザー数によって変化する。また、周波数幅あたり何bpsの通信が行えるかを示すスペクトル効率については、EV-DOやHSDPAなど3.5世代携帯電話(3.5G)と比較して優れているとしている。

3.5Gと比べ、スループット、周波数利用効率ともに性能が高いとしている

周波数帯と今後の予定

新しい無線通信技術が登場する際には、技術的な取り組みと同じかそれ以上に、法・規制との整合を図ることや各国間での調整が重要な課題となってくるが、802.16 WGとWiMAX Forumでは、IMT-2000の無線アクセス方式としてモバイルWiMAXを追加するよう、ITU-Rに働きかけているという。現在IMT-2000ではW-CDMA、CDMA2000など5つの方式が規定されているが、もしここに第6の方式としてモバイルWiMAXが加われば、「IMT-2000用」として割り当てられている周波数帯をモバイルWiMAXが使用できるようになるからだ。庄納氏は、WiMAX Forumでは技術的中立性の重要性を訴えており、無線アクセスに割り当てられた周波数帯の中で多様な方式が使われ、競争や技術革新を促進することが必要だと強調、IMT-2000でのモバイルWiMAX採用は「長年抱えていた周波数の問題が解決する」(庄納氏)と話す。

4Gでは携帯電話と無線ブロードバンドが同じ技術をベースとするといい、両業界の融合の可能性も示唆された

WiMAX陣営はIMT-2000へのモバイルWiMAXの追加を訴える。ただ、各国のさまざまな事業者間で必ずしも利害が一致しない面があるのも確かだ

日本においては、2.5GHz帯を広帯域無線アクセスシステム用に開放する方針が固まり、法令の改正案について意見(パブリックコメント)募集が行われている段階である。総務省の諮問機関である情報通信審議会は、同システムの技術的用件としてモバイルWiMAX、IEEE 802.20(MBTDD-Wideband)、802.20(MBTDD 625k-MC)、次世代PHSの4方式を検討対象としており、今年第2四半期には総務省が同周波数帯の免許方針・周波数割り当て計画を発表する予定だという。実際のサービスインは早くて2008年の後半になる見込み。

日本ではこの夏にも2.5GHz帯の周波数割り当てが行われる予定

インテル 事業開発本部長 宗像義恵氏

Intelは昨年12月にWiMAX/Wi-Fiを統合したチップセット「WiMAX コネクション 2300」の開発を完了し、今年中に搭載カードのサンプル出荷を行うと発表している。2008年にはノートPCやUMPCへの内蔵化のほか、モバイルWiMAX対応マルチモード携帯電話の製品化も視野に入れる。インテル事業開発本部長の宗像義恵氏は、同社の取り組みとして開発途上地域におけるスキル取得支援プログラム「Intel World Ahead Program」を紹介し、教育水準の向上には情報へのアクセス路が不可欠であり、そのための社会インフラ構築にもWiMAXは有効な技術であると述べた。

WiMAX搭載製品の本格展開は2008年と見込む