データベースはなぜ誕生したか

ところで、すでにエンタープライズ分野では一般的であるデータベースですが、これはなぜ登場したのでしょうか。

最初のコンピュータは、1942年の米アイオワ州立大学のJohn Vincent Atanasoff氏とClifford Edward Berry氏によって作られたABC(Atanasoff - Berry Computer)です。現在のデータベースの概念は、1959年に「Journal of the ACM Volume 6, Number 1, January 1959」に掲載されたW.C MaGee氏による論文「Generalization: Key to successful electronic data processing」にて発表されました。

商用のデータベースとしては、1964年に当時米 General Electric(GE)の主任技師であったC.W.Bachman氏を中心に開発された、GE-225で稼働する最初のデータベース管理システム(DBMS)である「Integrated Data Store」 (IDS)が登場しました。このIDSの登場後、データベース製品はさまざまな企業からリリースされていきました。例えば、筆者の勤めている日立製作所でも1974年に最初のデータベース「PDM」を発表しています。そして1979年には、米Oracleから最初の商用リレーショナルデータベースである「Oracle V2」がリリースされました。これを機に、1980年代後半には、現在、広く利用されているリレーショナルデータベースが一般的になりました。

このように、エンタープライズ分野ではデータベースの利用は当たり前のように進んできましたが、そもそも、なぜデータベースを利用するのでしょうか。この問いに対する答えとしては、次のようなものが挙げられるでしょう。

  • データを毎回プログラムで処理するのは手間がかかる
  • データ量やデータの種類が多くなったので、効率的にデータを管理する手段が必要になった
  • さまざまなプログラミング言語から汎用的に使えるデータ管理手法が必要になった

データ量が少なくかつ単一のデータであれば、ロジックを記述してプログラムでデータを処理することができると思います。ただ、データ量が多くなったり、検索機能を追加したりするなど、データ操作が増えれば増えるほど、データ操作のためのロジックは複雑になっていきます。そして複雑になればなるほどロジック作成にかかる時間も手間も増加し、要求される品質を保つのも大変になります。その上、作成したロジックの汎用性は乏くなり、再利用性が低くなってしまいます。

現在の携帯電話やカーナビゲーションシステムのように、さまざまなデータを取り扱う機器であれば、データをプログラムで処理すれば、なおさら複雑になります。データベースを利用することで、データ処理に汎用性を持たせることができるだけでなく、データ処理部分の品質確保が容易になります。また、データ量が増減しても、データ処理の時間が大きく変動するということも少なくなります。つまり、データベースの導入で、開発生産性も品質を高めることも可能になるということです。

つまり、コンピュータの歴史でデータベースがデータ処理を受け持ってきた理由と同様の理由から、組み込み分野でもデータベースがデータ処理を受け持つようになってきたというわけです。