管理職が持つ悩みの一つに、部下との会話があります。業務の指示など、伝えるべき要件があればまだしも、ミーティング後の軽い雑談でもと思っても「特にありません」としか言わないメンバーばかり。しかも、会社からは「1対1の定期ミーティングが大事だ」とプレッシャーをかけられて……。
この連載では、『シリコンバレー式最強の育て方 - 人材マネジメントの新しい常識1on1ミーティング-』(かんき出版)の著者で、1on1の第一人者である世古詞一さんより、「部下との距離の縮め方」についてお答えいただきます。
Q:部下との対話が盛り上がりません。投げかけた質問の最低限の答えしか返ってこない一問一答のやりとりになってしまいます。どうすれば良いでしょうか?
部下との対話で、上司が最も怖いのは部下があまり話をしてくれないことです。まったく話をしてくれないのであれば何か言いようもありますが、最低限の受け答えはしてくれているとなると、部下に突っ込みようもありません。
例えば、こんな事例です。
上司:「最近仕事は順調ですか? 何か困っていることありませんか?」
部下:「問題ないです」
上司:「それはいいですね、何か共有しておいた方がいいこととかは?」
部下:「特にないです」
上司:「……あ、目標の達成続いているけど、何か意識していることはあるの?」
部下:「いえ、普通にやっているだけです」
上司:「そう……」
このような、話が広がらないケースに万能の解というのは存在しないと思いますので、なぜ「一問一答状態になっているか?」を想定しうる原因別にその処方箋をお伝えしたいと思います。
部下との対話が一問一答になる4つの原因と処方箋
(1)上司との関係性が原因の場合
端的に言うと信頼関係構築不足の状態です。そもそも話す時間が少なくて、お互いのことをまだ知らない。もしくは、不満なことがあっても話ができていない状態でしょう。
このような原因であれば、対話する機会を継続していくこと自体が解決策になります。まずは、自分のことや考えをオープンに話して知ってもらうこと。そして次の(2)以降の対処方法が解決策になるので、丁寧に実践していきましょう。
その上で、日ごろから部下に対して感謝したり、任せたりする「承認」を心掛けていきます。
(2)本音を言えない雰囲気が原因の場合
考え方によっては、「順調です。問題ないです」と言っているので、必ずしもネガティブな反応ではないのかもしれません。にもかかわらず気になるのは「本音を語っていない」と思うからでしょう。こうしたケースは、企業風土として前向きな発言しか許されない、否定的なことを言いづらい組織によく見受けられます。
このような原因であれば、「ネガティブなことを言っても大丈夫」という空気、いわゆる「心理的安全性」を作る必要があります。まずは、部下のすべての話を肯定的に受け止めるよう自分のマインドをセットしましょう。
そして、部下から問題ない旨の返答があったら、「順調? 素晴らしい。僕が〇〇さんの頃には、いつも他部署との対応で悩んでいたけどねー。そういうの全然無い?」など上司から、うまくいかないことを呼び水として提示していくことが求められます。
(3)思考や意識レベルが原因の場合
業務に対する部下の問題意識や能力レベルがまだ低く、良い点も課題点も思い付かない状態です。理解できていないことを自覚できない、業務習熟の浅い部下や新人に見受けられます。
このような状況で、業務の課題について引き出したい場合には、オープンに「何か問題ある?」と質問するのではなく、範囲を特定して、「〇〇の件はうまくいっている? こんなことで困ってない?」という具体的事例を出して思い出させることです。
次に、話が途中で詰まったら、「AとBだったらどっちだろう?」と選択肢を与えることも有効です。さらに、テーマによっては話せることもありますので、興味のあるテーマは何か、部下の反応を見ながら話をしていきましょう。
(4)本人の性格が原因の場合
そもそもの性格として、誰に対しても反応が薄い、熟考する、あるいは無駄なことが嫌いで効率的にコミュニケーションを取る人がいます。まず、反応が薄いタイプには「沈黙を怖れない」ことです。反応が薄いだけで理解していないわけではありません。
熟考タイプには、根気強く待って接することが大事です。そして、効率的に一問一答しがちな人に対しては、「はい」「いいえ」で答えられるクローズドクエスチョン(例:今の環境はやりやすい?)ではなく、制約を設けず相手に自由に答えさせるようなオープンクエスチョン(例:今の環境についてどう考えている?)を活用していくと良いでしょう。
このように、一問一答になってしまう原因をまずは探りながら、それに合った解決法を試してみてください。